Sayaca 

 

Los mareados(酔いどれ達)

 詩:Enrique Cadícamo (エンリケ・カディカモ)

 

 

どうしてなのだろう

輝くほど美しい君は

酒を飲むと 綺麗なのに不幸に見える

シャンパンの杯を傾けながら

泣きたい気持ちを紛らわそうと

笑ってばかりいたね

 

君とこうして会って

君を見つめていると 悲しい気分になる

美しく輝きに満ちた その君の瞳を

僕はどれだけ愛したことか

 

ねえ 君

今夜 僕らは酔ってしまったね

人に笑われたっていいじゃないか

酔っ払いと呼ばれたって構わないさ

誰にだって悩みはある

もちろん僕たちにもね

今夜はとにかくとことん飲もうじゃないか

こうやって会えるのも これが最後なのだから

 

今日 君は僕の過去となっていく

僕の過去の歴史の一部へと

傷ついた僕の魂が背負っているものは

愛、悲しみ、そして苦痛の三つだ

 

今日 君は僕の過去となり

そして今 僕達は新たな道を歩みだす

僕たちの愛のなんと大きかったことか

それにもかかわらず ああ

残ったものといったら こんなものさ

 

 

 

 

Malena (マレナ)

 詩:Homero Manzi (オメロ・マンシ)

 

 

マレナはタンゴを唄う

彼女にしか歌えない唄を

一つ一つの言葉に心をこめて

その声には 郊外の香草の香り

マレナには唄う バンドネオンの悲しみを抱いて

たぶん子供の頃に起こった何かが

その雲雀の声を

路地の暗い音色に変えたのだろう

それともお酒を飲んで悲しくなった時にだけ話す

あのロマンスのせいなのか…

マレナはタンゴを唄う

影のある声で

バンドネオンの悲しみを抱いて

 

君の唄を聴くと

辛い別れを思い出す

君の唄は 甘さと苦さを含んでいる

君の声は 悲しみから生まれるのか

私はわからない

ただ感じるのは マレナ

君のタンゴの響きに

私よりずっと純真な 君の心を感じることだ

 

君の瞳は 忘却の暗闇

君の唇は 固く閉ざされた恨み

君の両手は 寒さに震える二羽の鳩

君の身体には バンドネオンの血が流れている

君のタンゴは まるで泥を踏んで歩く みなしごのよう

閉ざされた時間、ほえる魂

マレナはタンゴを唄う 

震えた声で

バンドネオンの悲しみを抱いて

 

 

 

 

Motivo de vals (ワルツのモチーフ)            

 詩:Carlos Bahr (カルロス・バール) 

 

            

過去の濁ってしまったいきさつに

失われた景色が映し出される

古びた鏡のように

今夜君と再会する

忘却と霧がおりなす灰色の

時の境界から聞こえてくる声

いまだに君を夢みると…

ワルツの音にのってよみがえる

 

色あせたワルツのモチーフ

 

突然 通りがけに聴こえてくる

あの日のメロディ

その流れにぼくは引き込まれる

感情のこもった声は

君のことを 思い出させる

限りなく近かった君が、近く、そして遠く…

懐かしい愛着のある言葉が聞こえてくる

僕たちの生きたあの日々が

消されることはないだろうと

 

 

 

 

Nada  (あなたのいない家)

 詩: Horacio Sanguinetti(オメロ・サンギィネッティ)

 

 

あなたの家までやってきた

どうやってたどり着いたのか 覚えていないけれど

そう、あなたはここにはいないのだと

そしてもう戻ってこないのだと 聞いた

どこか遠くへ行ってしまったのだと

 

私の心には なんと沢山の雪が降り積もり

あなたのいない家の入り口は なんと静かなのだろう

玄関に近づいてみると 悲しい鍵がかかっていて

私の心は立ち止まる

 

何も 何も残っていない あなたの生まれた家には

ただ雑草の茂みに 蜘蛛の巣がかかっているだけ

あの美しかった薔薇園も 跡形もない

きっとあなたが去った時に 枯れてしまったのだろう

全ては儚いものなのだ

 

何もない ただ悲しみと静けさがあるだけ

あなたが今そこに住んでいるかどうかさえ 知る余地もない

今 どこにいるのだろう     あなたの愛を探すために

私は後悔して今日戻って来たと 伝えたいのに

 

他に行く宛もなく あなたの家から遠ざかる

言いたくないさよならを あなたに告げると

あなたの声が 木霊になって

何もない場所から 私に答える

 

鍵で固く閉ざされた あなたの家の玄関

あなたの嘆きを思い 私は祈っている

哀れな私の心が 涙の花になって

玄関の大きな扉を 伝わり落ちる

 

 

 

Naranjo en flor(花咲くオレンジの木)

 詩 : Homero Expósito(オメロ・エクスポシト)

 

 

水よりも 柔らかな水よりも柔らかく

川の流れよりも 清らかだったあの娘(こ)

花咲くオレンジの木よ

あの夏の町に 今は無い街に

人生の一欠片(ひとかけら)を残して

行ってしまった

 

人は始めに悩むことを知らなければならない

その次に愛すること 又その次に別れることを

そして最後に 何も考えずに歩くことを

花咲くオレンジの木の匂い

風に乗って逃げて行った 空しい約束の数々

そして次に... その次なんかどうだっていい!

私の人生なんて みな過ぎたこと

私を過去に繋ぎとめる

永遠の 老いた 青春

私を 光りを失った小鳥のように怯えさせた...

 

私の手は あの娘(こ)に何をしたのだろう

いったい何をしたのだろう

私の胸に あんな苦しみを残して

古い木立の苦しみを

街角の唄 人生の欠片(かけら)

花咲くオレンジの木

 

 

邦訳:大澤 寛