Sayaca 

Psychoanalysis in BsAs 精神分析の都 ブエノスアイレス

FIFAワールドカップでのアルゼンチンの決勝進出が決まり、そして来週の「ブエノスアイレスのマリア」公演を間近にひかえ、心はすっかりブエノスアイレスに向いている私ですが、「ブエノスアイレスのマリア」作品の中に、「精神分析医たちのアリア」という、登場人物の ’精神分析医’ と ’マリアの影’ による、精神分析のセッション=言葉のやりとりで大部分が成り立っている曲があります。私にとって、今回特に最もチャレンジングなのがこの語りの部分なのですが(日本語訳は、小松亮太さんのCD「ブエノスアイレスのマリア」のライナーノーツをご覧下さい)、この難解な内容を少しでも理解して頂くためにも(来週の2公演は字幕なし)、ブエノスアイレスにおける精神分析について、私自身の6年間の在住経験も含めて少しお話ししたいと思います。

日本で、「精神分析」という言葉を聞くと、ほとんどの人があまりピンとこない、または興味がないと思います。あるいは、映画好きの方ならば、ウッディー・アレン監督の「アニー・ホール」(私も大好きな映画♪)を思い出されるかもしれません。それが、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでは、中流階級以上の人は、一生に最低一度は精神分析の経験がある、というほど、人々の生活に根付いているものであり、日本で言えば、マッサージや占いに行くぐらいの気軽さで、人々は精神分析に通います。例えば、何かに悩んでいる人がいると、「私の精神分析医を紹介してあげるわ」「僕のこの前の精神分析医はとても良かったから、連絡先を教えてあげるよ」という風に、日々の生活の会話の中でも、「精神分析」(直訳はpsicoanálisisですが、日常で使われるのは 'terapia テラピア' = セラピー)という言葉は、非常に良く使われます。

特にイタリア系移民の多いポルテーニョ/ニャ(ブエノスアイレスの男性/女性)は、心の奥にある欲求不満や抑圧を言語化することで、ストレスを解消するスタイルを好む傾向にあり、実際、ブエノスアイレスの街中のカフェでは、一つのテーブルを囲んで、全員の口が動いている(=聞き手が存在しない)という光景を良く目にするのですが、それはもはや複数の人々による「対話」ではなく、それぞれのナルシシズム、または強迫観念による「独白」と言っても過言ではないでしょう。つまり、自己が壊れてしまっている=相手の声のみならず、自分自身の声さえも聞き取れない(この自己解体を見事に表現しているのが、映画「タンゴ・ガルデルの亡命」)。しかし、所詮、人間というのは自分の言う事を聞いてもらいたい欲求のある生き物。そこで登場するのが、聞くことのスペシャリスト=精神分析医、となり、患者は、その道のプロにお金を払うことで、自己の声を思う存分たっぷり聞いてもらい、共に自己の内面を見つめ、掘り下げる作業を進めていく、と。

さらに、この自己の解体に加え、あるスペインの詩人が、「ブエノスアイレスは、難聴か記憶喪失をわずらっている街だ」と言ったように、ブエノスアイレスの街の道路や乗り物の質の低さ、または人々のひっきりなしの「独白」によって生じる、絶え間ないノイズ=騒音により、街全体が非常にうるさいため、実際にノイローゼ気味の人が大変多く、特に(若い)女性のバッグには、アスピリン、精神安定剤が入っているのは当たり前で、私自身も、ある信頼できるタンゴミュージシャンの紹介で精神分析に通い始め、さらに、アスピリンを常にバッグに持つようになると、地元の友人達から、「サヤはもう完璧なポルテーニャだね」と言われて、複雑な気分になったと同時に、この街だけが持つ独特の、一筋縄ではいかない屈折感を肌でリアルに感じ、そしてそんな街だからこそなおさら愛しく思える、という非常に複雑でアンビバレントな気持ちになったことを鮮明に覚えていますし、今でもその気持ちは持ち続けています。

(この曲に関して言うと、語りの始まる前の、最初の軽快な部分は、ブエノスアイレスの街の神経症的な騒々しさや虚構的な明るさ、また、ボルヘスの言う「我々に残されたもの、それは哀しみを楽しむということだけだ」的なシニカルさを表し、そしてその後の静けさと共に、’マリアの影’ による「独白」が始まり、演奏はその独白と共に揺れ動く彼女の心の在り方を表しているのではないかと、私なりに解釈しています)

今回の「精神分析医たちのアリア」では、こういった背景、そして私自身のスペイン語での精神分析の経験を基に、このブエノスアイレス独特の複雑な屈折感、自己解体的な不安定さ、あるいは軽いノイローゼ的な雰囲気を、ピアソラ、フェレールの精神をリスペクトしつつ、現代のクロスカルチャーなフィルターを通して少しでも表現できれば、と思っています。

ブエノスアイレスの精神分析、特に自己解体については、後日お話ししたいと思います。

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